2022.6.2
スペシャル インタビュー

「デザインを探して」浦部岩正(ワークショップ浦部)

「デザインを探して」
ワークショップ浦部  代表 浦部岩正

聞き手・編著:竹添博章

浦部さんは私が入社した会社の大先輩であり、大師匠である。
商業デザインについてまさに“OJT”で教わった。
出会ったときには、すでに一流デザイナーだった先輩に
ずっと訊きたかった浦部流「デザイン事始め」について訊いてみた。

もともとは、ディスプレイ業界を目指していたわけではなく、町工場の企画・技術部としてスタートしました。日々の業務は製作物の図面作成や新製品の開発・検証に必要なモックアップ作成から役所への図面申請などでした。
ある意味ではクリエイトと呼べるモノづくりを行っていました。

時代は、EXPO 70 大阪万博。右を見ても左を見てもデザイナーが転がっていました。そんな中、ディスプレイの領域のデザイナーにあこがれ会社を辞めてデザイナー養成の専門学校に入学。通学しながらアルバイトでウインドーディスプレイなどの小さな装飾技術の経験を積み重ねました。

当時は、デザイナーであっても現場で施工も行っていました。
デザインとの出会いは、最初からデザインに対して夢や希望があったのではなく,今 思えばデザインやディスプレイが時代のトレンドであったので、それがきっかけになったと思います。

空間デザインやディスプレイ技術をどのように捉えてきたのでしょうか。

空間デザインとは、概念的な言葉として理解できているものです。一方ディスプレイとは、産業分類の「その他の事業サービス業」に分類される「ディスプレイ業」として生きた言葉として存在します。

ディスプレイ業の中身を見てみると、フィールドで分けるとイベントや商業施設、文化施設など様々なジャンルがあります。また、それぞれのジャンルの中にも木工・金物・電気・サイン等々の技術・業種があります。
それらすべてをひっくるめて空間を飾るということをディスプレイと呼んでいます。

現在、ディスプレイ業を営む大手・中堅企業は、最大手の乃村工藝社以外は、フィールドなどを絞り込み特化して専門化しています。それでも未だに、まとめて何でもオールマイティーな対応をする企業もあります。
そのまとめて対応していることに対する詭弁の言葉が空間デザインという言葉です。

相手を丸め込むために空間デザインという言葉を使うのはNGです。
空間デザインという概念をもって最新の技術を集結させて空間の構築に取り組むことは非常に価値あることであると考えます。

今だから言えることですが、カオスのようなディスプレイ領域の中で空間を企画・設計してきたことには、反省することも多々あります。
ディスプレイ業がまだ確立していなかったこともありますが、偏った知識と少ない選択肢で答えを出していた気がします。

空間をデザインするという意味では、本来 その空間の構成要素をすべて把握した上でデザインしなければなりません。しかし映像やグラフィックなどの内容までは深い考察や議論はせずクライアントの持ち込みという扱いで、そこには手間をかけませんでした。

これについては、所属している会社の方針もあり効率の良い売上・利益ということが優先されました。リスクを回避し得意領域の線引きをするのは、当然の流れでした。

空間デザインを行っているが商いとしては行っていないというもどかしさがありました。

これからは、空間デザインを行う場合、構成要素のすべてに対して企画・設計・制作・施工に関する責任を負う広告代理店のようなポジションになるか、それとも全体を把握しながらも責任を取る範疇を明確にするか、立ち位置が大切になると考えます。

後者の場合たとえば、空間造形は実施まですべて責任を持ち、映像はディレクションと管理まで、解説原稿はサポートまで等、すべてに関わり最終的に現場に納品される状況を把握できていることにより空間デザインは成り立つと考えています。
空間デザインとは、お客様に合わせたオーダー品に対するブランドであると思っています。

100案件あれば100通りの空間デザインがあります。現実的には手間暇かけられずに似非的な形のパースやプレゼンで対応することが多々ありました。
要するに空間デザインと言えるほど深く案件に入り込んでなかったということです。

また、空間デザインを実現化するための一つの技術がディスプレイ技術です。競合他社との競争に勝つには日々新しい技術や素材を取り込んでレベルを上げる必要があります。

ハイレベルな空間デザインを実現するには高度なディスプレイ技術が必要であると考えます。

モットーにされていることなど、ありますでしょうか。

事業サービス業として法人や団体が求めるものを創意工夫して創り上げ最大限のサービスを提供することをモットーにしてきました。よって個人との取引きには足を踏み入れていません。

デザインする上で大切にしていることは、どのようなことですか。

デザインをするにあたり意匠・機能・コストのバランス感覚が大事であると考えます。その中でもクライアントの目的達成に関わる「機能」を最も重視します。

その上で求められている予算を意識しコストを調整します。経験上、コストは曖昧模糊なものになりかねないですがデザインする上では重要な要素です。

デザインする上で現在と過去で変わったことはありますか。

まさしくアナログからデジタルに変わったことです。手で書いていた線がコンピューターのラインになり表現する形や方法が変わりました。

デジタル技術は現在進行形を含めて日々変わっています。今後はBIMなどの活用が必要になると考えます。

失敗談をお聞かせください。

デザインや設計でこれといった失敗というものがないほど、やり尽くしたことがないということです。

失敗談ではないですが、デザインしたものが実際に反映されていないことが多々あり現場に行くことが嫌になることがありました。
予算などの絡みで営業マンが最終段階で設計変更しているのです。今考えれば、打合せ不足が原因であったと反省しています。

これからデザインを志す人にどんなことを伝えたいですか。

その人の立場によって何をするべきかは変わってくると思います。所属する業種業態や会社の規模やセクション、ポジション、取扱商品などの違いでデザインの取り組み方や方向性も変わります。自分の役割を理解することが大切になります。

ちなみに私がディスプレイ会社に所属していた時は、クライアントと制作会社に対してデザインを理解してもらうために図面を作成していました。
言うなればデザインの記号化(見える化)をするメッセンジャー的な役割を担っていたと思います。


浦部岩正(ワークショップ浦部 代表)

大手ディスプレイ会社でクリエイティブ部門の責任者としてあらゆる空間の企画・設計に携わる。
電鉄系ハウスエージェンシーに転職。「国際花と緑の博覧会」の会場動線計画やパビリオン内イベントの企画・デザイン・運営などの業務を推進。
現在は「ワークショップ浦部」にて大手広告代理店やディスプレイ会社などのブレーンとして様々な空間の企画・設計に携わっている。
ディスプレイ領域で新しいアプリケーションの開発などLAB的な活動も行っている。


編集後記

今までお仕事で出会った中で物事の考え方や捉え方、結論を導き出す思考など、その頭の中を一番、見てみたいカリスマ的な存在の浦部さんとの対談が実現しました。
デザインに関するこだわりや奥の深さを再認識することができました。

近い将来、人間の知能をサーバーなどに移植できる日が来るでしょう。
その中に浦部さんの頭脳も保管できればと思います。